シニアマーケティング、根っこの話 vol.1「アクティブシニアが生きてきた時代背景」
アクティブシニア
シニアマーケティング
根っこの話
アクティブシニアのライフスタイルやマーケティングを知る上で、欠かせないファクターは、彼らがいままでどんな時代を経て、何を体験してきたかが、シニアマーケティングの重要なファクターとなると思います。アクティブシニアを65歳から70歳くらいと定義するならば、いわゆる「団塊の世代」(1947年~1949年)の少し後の世代になります。団塊ジュニア世代まではいかなくとも、高度成長時代に育った子供たちと言えます。
今回は、アクティブシニアのニューカマーである65歳(昭和31年生まれ)を定点で捉え、彼らが体験した時代や社会の空気感を駆け足で振り返ってみましょう。
高度成長期の子供たち
1956年(昭和31年)、神武景気、岩戸景気など、日本の高度経済成長時代に、彼らは生まれました。彼らの両親たちは戦中戦後を経験し、貧しさから抜け出すため、この好景気を背景にただがむしゃらに働きました。この頃、三種の神器(冷蔵庫・洗濯機・白黒テレビ)などの耐久消費財ブームが発生。三種の神器は、夢ではなく努力すれば手が届く商品であり、新時代の家庭における豊かさや憧れの象徴となっていました。この高度経済成長期は、1973年まで 19年ほど続きます。
現在65歳のアクティブシニアは、この頃、幼少期から少年時代を経て青年期を迎えます。テレビでは、時代を反映していわゆる「スポ根もの」が隆盛を極め、努力と根性で立ち向かえば何でも叶えられる、そんな真っ直ぐな空気感の中、多感な時期を過ごしていました。これらは、シニアマーケティングの「原体験」として最初にチェックすべきポイントです。
1956 0歳 神武景気(~1957年)
1958 2歳 岩戸景気(~1961年)
1964 小学生 いざなぎ景気(~1970年)・オリンピック景気
1966 小学生 日本の総人口が1億人を突破
1970 中学生 日本万国博覧会
1972 高校生 日本列島改造論
もちろん好景気は永遠に続くはずがありません。1973年、列島に衝撃が走りました。いわゆるオイルショックです。原油の供給逼迫と石油価格高騰、世界経済が混乱。これにより、日本の消費は低迷し、戦後初めてのマイナス成長を経験し、高度経済成長がここに終焉を迎えました。
現在65歳のアクティブシニアは当時、受験生。1974年の大学進学率は25.1%、当時としては高い進学率でした。社会人として経験した景気後退ではないにしても、学生の肌感覚として右肩上がりの時代は終わりを迎え、日本経済の脆さを感じ、就職への漠然とした不安感を持つようになった頃です。後の就職氷河期ほど酷くはないものの、オイルショック前に就職した上の世代に比べると就職環境は厳しかったと言えます。
1974 高校生 第1次オイルショック・大学進学率25.1%
1976 大学生・社会人 家庭用VHSビデオテープレコーダ発売
1978 大学生・社会人 原宿に竹の子族登場
1979 大学生・社会人 第2次オイルショック
バブルとは?シニアマーケティングの重要ファクター
1980年代前半は、円安ドル高の影響もあり、自動車や電機製品などのハイテク産業を中心に輸出が増加しました。まさに『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の時代。しかし、貿易不均衡解消のため、あの悪名高き「プラザ合意」が行われて以降、円高不況が到来。日本銀行は低金利政策を実施しましたが、あまりの金融緩和で地価・株価が高騰し始め、バブル景気が発生しました。その後、資産価格急上昇によるひずみや、政府による金融引き締め策により地価・株価は暴落したため失速。1991年にはバブルが崩壊しました。
現在65歳のアクティブシニアは、バブル景気とバブル崩壊を、いわゆる「働き盛り」に体験しました。いま、アクティブシニアや団塊の世代がよく口にする「あの頃は・・・」「イケイケどんどん」は、バブル経験者の夢のかけらかも知れませんね。値段が高いもの=いいものという価値観が、バブルを経験した世代に共通しています。高級ブランド品や高級車といったぜいたくなものを身につけることが彼らのステータスとなっていました。シニアマーケティングのインサイトを知る上での重要なファクターの一つと言っていいでしょう。
1986 社会人30歳 バブル景気・男女雇用均等法施行
1988 社会人32歳 青函トンネル、瀬戸大橋が開業
1989 社会人33歳 元号、平成に変わる
1991 社会人 35歳 バブル崩壊
バブル崩壊から失われた10年へ
1990年代初頭に日本のバブルが崩壊し、その後「失われた10年」と呼ばれる長期停滞が続きました。2002年になると、低成長率ながら、景気はやや回復。しかし、2008年のリーマンショックが引き金となり、世界同時不況が起こり、ふたたび景気が急激に悪化。経済は長期低迷期、低成長時代を迎えました。その後も、時代は激しく揺れ動きます。少子高齢化社会の始まり、未曾有の大震災、などなど、定年時には新型コロナ感染拡大と大きなマイナス要因が続きます。
現在65歳のアクティブシニアは、いままでは当たり前と思っていた終身雇用や年功序列という雇用制度の崩壊を実体験します。リストラの嵐も吹き荒れました。「頑張ればなんとかなる、努力すれば報われる」時代との決別をようやく覚悟したのではないでしょうか。これらの出来事は、壮年期の経験なので以後のシニアマーケティングに大きな影響をもたらしたものと推察できます。
1991 社会人 35歳 湾岸戦争・ソビエト連邦消滅
1992 社会人 36歳 少子化現象(白書初報告)
1995 社会人 39歳 阪神・淡路大震災
2000 社会人 44歳 2000年問題・介護保険制度スタート
2006 社会人 50歳 65歳以上の高齢者の割合 初めて20%超
2008 社会人 52歳 リーマンショック
2011 社会人 55歳 東日本大震災
2019 社会人 63歳 新型コロナウイルス感染拡大
2021 社会人 65歳 定年
アクティブシニアのニューカマーの特徴
1956年生まれ、現在65歳のアクティブシニアのニューカマーが体験してきた時代を駆け足で見てきました。好景気と不況、災害や社会の激変、アップダウンの多い時代の中を生き抜き、いま彼らが思うことはなんでしょう。一括りに彼らの傾向や趣向を決めつけることはできません。育った環境も、経済面も、人脈も、価値観も一人ひとり違います。ただ、このような時代を同時体験してきたことだけはファクトです。そうした中で、シニアマーケティング的に共通項をあえてあげてみると
・努力すれば報われる論
・バブルの残像
・「団塊の世代」との異質感
などの心象が浮かんできます。いまの子ども世代には考えられない価値観に感じられるかもしれません。それらの価値観を形成してきたのは、当然ですが彼らが体験してきた時代背景。シニアマーケティングを考察する上で、避けては通れない重要なファクターです。
いまのアクティブシニア(65歳〜70歳)が、いわゆる「団塊の世代(72歳〜74歳)」と異なることは、また別稿に掲載します。