シニアマーケティング、根っこの話 vol.2「アクティブシニアのファッション孝」
アクティブシニア
シニアマーケティング
根っこの話
アクティブシニアのマーケティングやインサイトを探るには、さまざまなアプローチがあります。特に趣味・趣向へのこだわりは、年齢を重ねるごとに顕著になってきます。今回は、アクティブシニアたちがまとってきたファッションを取り上げてみます。ファッションは、すなわち彼らが生きてきた時代の空気そのものであり、いまの購買行動やライフスタイルに大きな影響を与えています。
根っこの話vol.2では、ライフスタイル雑誌ライトニングやフリー&イージーの制作をはじめファッション広告を数多く手掛けてきたアートディレクター 永井マイケル雅行氏のインタビューを通じて、シニア世代のファッションを考察していきたいと思います。永井氏はいわゆる団塊の世代と言われる年齢で、いまなおファッションへこだわり、第一線で活躍されているディレクターです。
ファッションの目覚めとスタイルの楽しみ方
Q. ファッションに目覚めたのはいつの頃ですか
永井 中学、高校生の頃ですね。父親が固い勤め先で、いつも丸善で洋服を一式揃えていました。パリッとした感じが中学生ながらとても魅力的でしたね。やはり、ファッションの入り口は、誰にも当てはまると思いますが環境ですね。家庭はもちろん、住む場所、友人などの環境。私の場合、アメ横が近くにあってその影響も大きかったですね。まだ日本では珍しかったレッドウィングのブーツやリーバイス501などを探していました。
Q. 昭和の時代、太陽族やみゆき族、アイビールックなど、いわゆる「族」や「ルック」というさまざまなトレンドがあったと思いますが、そんな時代を生きて、永井さんご自身影響を受けたことは?
永井 私はどっぷりそれらの流行にハマまることはありませんでしたね。もちろん、VANなどを着ることはありましたが、足の先から頭のてっぺんまでそれ一式ということはありませんでした。良いもの、感じたものは自分のスタイルに消化していく、そんなスタンスだったかもしれません。そのスタンスは、いまも変わりません。ただ、年を重ねるとある程度テイストを変えていかなければ、違和感が出てくるので気をつけなくてはなりませんね。最近は息子のファッションと見比べて、自分はもっとこうしようとか、ああしようとか参考にさせてもらっています(笑)
おしゃれなアクティブシニアでいるためには、ただ流行を追いかけたり若者と同じ格好をしたりすれば良いというわけではなく、自分の体型や肌などに合わせて年相応にアレンジすることが大切ですね。
Q. いまの永井さんのファッションスタイルを決定づけたものは何ですか?
永井 ミウラ&サンズとの出会いですかね。1975年、上野・アメ横に開業した洋服店「三浦商店」が、その後渋谷・道玄坂に「ミウラ&サンズ」として移転し、さらに銀座にセレクトショップ「SHIPS」を開店。私はこのブランドに草創期の頃から親しんでいます。三浦さんとも何度かお会いしお話をしています。同時期の「BEAMS」も開店時期からのお付き合い。当時はまだインポートものと古着のお店でしたが、いまや日本を代表するセレクトショップに成長していますね。
「SHIPS」「BEAMS」とも、いまもアクティブシニアたちに人気のブランドと言えます。
トラディショナル、スタンダードでありながら、カジュアルかつコンテポラリーなところが気に入っていて、私のいまのスタイルを決定づけていますね。ただ、先ほども言いましたが、全部をまとうことではなく、いわばいいとこ取りが楽しいですね。ユニクロ、オールドGAP、adidasやNIKE、そして古着も、その時々の気分で取り入れています。
ファッションはお金のかかる趣味、
そして「生き方」。
Q. 歳を重ねいまでもファッションにこだわり続けるモチベーションはどこからくるのでしょう?
永井 そうですね、私たちデザイナーの仕事というのは、「人に見られる仕事」だと思っています。私自身がモデルやタレントではありませんが、クライアントから仕事の依頼が来たとき、姿かたちも名刺になります。雰囲気がある、おしゃれに気を配っている、そんな印象をクライアントからも周りのスタッフからも持たれたいというのが根っこにありますね。それは若い頃も歳を重ねても変わりません。
Q. ちょっと漠然とした質問なのですが、一般的に永井さんの世代の人たちは、ファッションについてどんな考えを持っているのでしょう?
永井 アクティブシニアの中にはファッションにあまり関心のない人も多いですし、良い仕立てのスーツを着続けている人もいます、奥さま任せの人もいます。音楽もそうですが、ファッションも本当に一人ひとり趣向が違います。自分たちが経験してきた一つひとつのことや出会いが、それぞれのワードローブになっていると思います。特にアクティブシニアは経験値が高い分、引き出しも多いということが言えるのではないでしょうか。
一つ言えることは、ファッションはお金のかかる趣味だということです。それなりの品質やブランドものは高価であり、また消耗品でもあります。流行や季節によってアイテムも変わります。オンラインショップではなく、自分の足で見つけるというプロセスも含めて、贅沢な趣味と言えます。
シニアマーケティングの観点から見てみると、可処分所得のうち「自分のこだわり」にどのくらいお金を使うことができるかがポイントですね。それがゴルフの人もいれば、バイクや釣りなどさまざま。すべての趣味を追い求めることができる人はさておき、たいていの人たちは何かに偏っていくと思います。
私の場合、おしゃれの比重が高いですね。何歳になってもおしゃれでいたい、デニムがいつまでも似合うような体型でいたい(笑)そんなふうに思っています。
Q. 最後にシニア世代における、ファッションのインサイトをお聞かせください。
永井 そうですね。アクティブシニアを一般化するのは難しいですけど、確かなことは誰にとっても「ファッションは生き方」と言えます。シンプルがベストという人もいれば、年相応の服装を選ぶ人もいる、まだまだアグレッシブに挑戦する人もいる。極端に言えば服装を見ればその人の積み重ねてきたライフスタイル、何を大事にしてきたかなど、その人の「生き方」がわかります。
最近は、ブログやインスタなどSNSで、シニアの人たちも自らおしゃれスタイルを発信しファッションを楽しむ人が増えているのはうれしいですね。日本のシニアも変わりつつあります。私もアクティブシニアの一人として、負けずに発信していきたいと思います。
ファッション関係の仕事に長く携わってきたアートディレクター 永井氏のお話で、特に印象に残ったのは「ファッションは生き方」を映すという視点です。そして自らを発信するシニアが確実に増えてきているというトレンドです。
シニアマーケティングにありがちな、歳を重ねることで派手な服装より落ち着いた「年相応の服装」を好む、などのステレオタイプなミスリードがあります。TimeTownはこうしたフレームは避け、いまを生きるアクティブなシニアをこれからも追っていきたいと思います。
最後に、シニア世代が体験してきたファッション・トレンドを、年代別キーワードに表してみます。彼ら、彼女らが実際にまとったかどうかは別として、それらはいまなおそれぞれの心の中のワードローブに息づいていることでしょう。
50-90’ ファッションキーワード
50年代
ロカビリー、太陽族
アロハシャツ、マンボズボン
60年代
ヒッピー VAN アイビールック JUN
パンタロン ボタンダウンシャツ コインローファー
ミニスカート みゆき族 サイケ族
70年代
アンノン族 サファリジャケット トンボメガネ ベルボトム ホットパンツ
イッセイ・ミヤケ ニュートラ・ハマトラ ヘビーデューティ
80年代
たけのこ族 DCブランド ボロルック カラス族(ワイズ・コムデギャルソンなど)スタジャン ボディコン 渋カジ デッキシューズ 紺ブレ ケミカルウォッシュジーンズ イタカジ アウトドア
90年代
アニエスべー(フレンチカジュアル) シャネラー やまんばギャル 厚底サンダル キャミソール ルーズソックス adidasジャージ スケーターファッション 腰パン サーファーファッション フリース ストリート系
Memo:90年以降は「族」「ルック」という表現がなくなる。みんなが同じ方向を向くトレンドという大きな川がなくなり、多様性に富んだストリーム(支流)になっていったのがわかる。
パラダイス主宰・アートディレクター
永井マイケル雅行
1972年、東京芸大デザイン科卒業。外資系広告代理店、国内大手広告代理店を経て1989年パラダイス設立。代表作品はワコール、ロレアル、ローバー、SHIPS、ユーミンコンサート、ライトニング、フリー&イージーなど。主な受賞歴は、日経広告賞、日経流通広告賞、ACC秀作賞など多数。非常勤講師として、東京芸大、多摩美、桑沢デザインなどで「Web デザイン」「Web演習」を教える。イラストレーターとしても活躍。